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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)1866号 判決 1969年8月08日

被控訴人 兵庫相互銀行

理由

被控訴人主張の請求原因事実は、当事者間に争いがない。

本件(1)、(2)の約束手形金の請求をしない旨の合意が成立したとの控訴人の抗弁は、この主張事実を認めるに足る証拠がないので理由がない。

本件(1)、(2)の約束手形について、被控訴人が金六七万円を免除し、控訴人に対して金三三万円を越えて請求しない旨の合意が成立したとの控訴人の抗弁について判断する。

この控訴人の主張にそう《証拠》は、《証拠》に照らして信用し難く、他に控訴人の右抗弁事実を認めるに足る証拠がないので、この抗弁も理由がない。

つぎに本件(3)の約束手形の悪意の抗弁について判断する。

控訴人は、本件(3)の約束手形債権は、被控訴人がこの手形を取得する前に、訴外相互信用金庫が、裏書人である訴外大又株式会社に対する右約束手形金債権と同訴外会社に対する預金支払債務とを相殺したことにより消滅した旨主張するが、この主張事実を認めるに足る証拠がないので、被控訴人が悪意であるか否かについて判断するまでもなく、この点についての控訴人の抗弁は理由がない。

そこで、債務不履行を前提とする悪意の抗弁について判断する。

《証拠》を総合すると、控訴人は、訴外大又株式会社と昭和三〇年頃から取引をしていたが、本件(3)の約束手形は、本件(1)、(2)他の約束手形と共に、控訴人が、右訴外会社から買い入れる洋傘用生地の前渡金として交付されたものであつたが、右訴外会社が昭和四一年一月一九日、不渡手形を出して倒産したため、控訴人は、本件(1)ないし(3)の手形については、品物を受領できなかつたことが認められ、他にこの認定を覆えすに足る証拠はない。

被控訴人が、本件(3)の約束手形受領当時右認定事実を知つていたかどうかについて判断する。

《証拠》を総合すると、

一、被控訴人の大阪支店は、昭和三八年五月以前から訴外大又株式会社と手形割引などの取引があつたこと。

二、右訴外会社が倒産した当時(前記のとおり昭和四一年一月一九日)、被控訴人と右訴外会社との取引は、被控訴人の貸越となつており、担保を処分しても回収不能の債権があつたこと。

三、訴外大又株式会社の代表者、訴外玉野次雄は、昭和四一年三月二日、右回収不能の債権の弁済のために本件(3)の約束手形を最終被裏書人欄に訴外相互信用金庫と記載されたままで、原因関係を説明せずに被控訴人大阪支店へ持参交付し、被裏書人欄はその後被控訴人の求めに応じて被控訴人と訂正されたこと。

四、被控訴人の大阪支店には、整理係としては丹羽与一郎一人であつたが、貸付係としては他に七人の職員があり、貸付、整理の事務は、この八人が共同して行つていたこと。

五、訴外大又株式会社の債権者集会が、昭和四一年一月末日から二月初旬にかけて行われ、被控訴人はこれに出席しなかつたが、当時その事実を知つていたこと。

以上の事実が認められ、他にこの認定を覆えすに足る証拠はない。

更に、《証拠》を総合すると、

一、本件(1)、(2)、の約束手形については、いずれも満期当時契約不履行を理由に控訴人が約束手形金の供託をし、被控訴人は、当時右事実を知つていたこと。

二、被控訴人は、控訴人との間で、本件(1)、(2)の約束手形について、昭和四一年三月下旬頃まで交渉していたが、その間、本件(3)の約束手形については何らの交渉をせず、従つて、控訴人は当時被控訴人が本件の約束手形を所持していることを知らなかつたこと。

以上の事実が認められ、他にこの認定を覆えすに足る証拠はない。

以上の認定事実に、前記当事者間に争いのない事実(本件(1)、(2)の約束手形の振出日がいずれも昭和四〇年一〇月二二日であり、本件(3)の約束手形の振出日が同年一二月二〇日であること、本件約束手形の満期は、(1)が昭和四一年二月二五日、(2)が同年同月二八日、(3)が同年四月二五日であり、いずれも満期に支払拒絶されていること)を総合判断すると、被控訴人は、本件(3)の約束手形取得当時、これが自己の前者である訴外大又株式会社に対して、控訴人から前渡金支払のために交付され、右訴外会社が倒産のため、右前渡金に対する債務を履行できないことを知つていたものと認められる。

そうすると、控訴人の抗弁は理由があり、その余の争点について判断するまでもなく、被控訴人の本件の約束手形金の請求は理由がない。

つぎに、控訴人の金三三万円の定期預金をまず本件請求金額に充当する旨の合意が成立したとの抗弁は、この主張事実を認めるに足る証拠がないので、理由がない。

以上によれば、被控訴人の請求は、そのうち金一〇〇万円およびこれに対する昭和四一年四月二六日から支払ずみまで年六分の金員の支払を求める部分は正当であるが、その余の請求は理由がないところ、本件の第一審の通常手続の本案判決はこれと結論を異にするので、右の限度でこれを変更する。

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